スリ族にとって、牛は神聖なもの。スリの男が奥さんをゲットするときは、牛が結納金代わりになるのだとか。牛を持っていない男は、お相手を見つけるのが難しいとも聞いた。財産でもあるようだ。飼っている牛を殺して食べることはなく、牛乳や死なない程度の血を飲む。そんな大切な牛を殺してしまうという特別なセレモニーに、この日僕らはお邪魔した。会場は草むらの奥の村の一角で、ペインティングをした牛を連れた人々が続々と向かっていた。呪文のような言葉を発しながら、時たま空に向かってライフルを撃つ。人々に笑顔はなかった。その雰囲気は凄まじく、ちょっと泣きそうになりながらも、ようやくたどり着いたセレモニー会場。見ると、一軒の家の上にたくさんの人々が乗って、揺れている。その周りでは、大切な牛が数頭、すでに捧げられていた。銃声はまだ続くし、光景がカオスすぎて、最早よくわからない。あとからスムスムに聞いてようやく理解できたのだが、このセレモニーは、先日亡くなった偉い人の葬いの儀式だったそうな。人々が乗っていた家はその人の家で、最終的には家を潰すのだそうだ。厳かとは程遠かったが、スリの人たちの大切な儀式だというのは、よく分かった。興味深い体験だった。ちなみに、セレモニー会場での撮影ができなかったのだが、それは結構な金額を要求されたから。交渉でみるみる値段は下がったのだけれど、それでも高かったので断念した。こんな時でもきっちりビジネスをしてくるスリの人々も、なかなか興味深い。
Tabi
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